アールヌーボー
〜エミールガレが創造した究極のガラス工芸〜

 ガラス工芸
には興味がない人でも、アールヌーヴォーという言葉は一度は聞いたことがあることでしょう。
これぞまさしくガラス工芸の真髄、または異端児とでも呼びましょうか、すばらしく気持ちの悪いグロテスク系の作品(失礼)が19世紀末に突如現われ、あっという間に世界を震撼させました。ガラスの歴史が5千年以上も続くなかでもその存在は際立ち、今も尚、世界各国のガラスアンティークコレクターから重宝がられ、そして魅了しております。



 アールヌーヴォーとは、「新しい芸術」という意味で、1890年〜1910年の約20年間の間にかけて、フランスを中心とした欧米諸国で流行した新しい装飾美術様式をいい、バロック・ロココからイスラム、ケルト、日本をはじめアジアなど、国境や時代を超えて、その勢力は衰え知らずに世界に波及していきました。

 アールヌーヴォーの登場により、絵画、インテリアなど多くの分野で芸術家が活躍し、ガラス工芸においても草花や昆虫など「自然」の動植物をモチーフに幻想的な色合いで彩るといった装飾豊かなガラス美術品が数多く作り出されました。中でもガラス工芸のアールヌーヴォーと言えばエミール・ガレというぐらい当時のガラス芸術に革命を起した人物でした。フランス人のエミール・ガレは創作拠点としたフランス東部の町ナンシーが中心となり、この頃に「ナンシー派」と呼ばれる多数のガラス作家が誕生したのです。

 ガレの作品は、おもに色ガラスを何層にも重ねて、そこにグラヴィールエッチングなどの技法で動植物や昆虫などを表現した作品を創り出すのがその特徴ですが、ガレは「自然」をガラスに表現することによって、生死や復活などといったものを人々に伝えたいという願いが作品に込められていたと聞きます。つまり、ガレは花やきのこ、魚などによって、生命の尊さを表現していたのですね。

 こうした作品を作り上げていく中で、もちろん技法の研究もし、その過程で彼なりの独自の製作技法も誕生していきました。そのなかでもマルケットリーという別に用意しておいたガラス片を、過熱して本体に埋め込み、再び熱などを加えてなじませながら、より作品を実写的に表現するといった技法は特許も取得したほどガレの代表的な技法です。

 深遠な芸術性をもつエミール・ガレの活躍によって更にアール・ヌーヴォーが世間に浸透し始めた頃とは対称的に、より一般的に親しみやすい作品を作り上げていたのがドーム兄弟です。ガレと同じくナンシー派で活躍したオーギュスト・ドームとアントナン・ドームの兄弟。昆虫をリアルにレリーフした作品が作られ、雪が舞う樹林や雨に打たれた樹林の風景など、立体的で奥行きのあるファンタスティックな世界が彼らの作品の特徴です。

 舞台をアメリカに移すと、米アールヌーヴォー代表格がルイス・カムフォート・ティファニーです。ガレやドームとは違い、ステンドグラスを得意とし、ステンドグラス片に銅のテープを巻き付けてハンダでつなぎ合わせるという技法は「ティファニーランプ」と呼ばれ、注目を浴びました。また、孔雀の羽などの曲線的なモチーフをあらわし、ラスター彩色で虹色や玉虫色に発色させたものを改良し、「ファブリルガラス」という独自の技法も考案し、アメリカでのアールヌーヴォー全盛を謳歌したのです。

 その後、アールヌーヴォーは急速に終焉へと向かい、アールヌーヴォー時代でもジュエリーデザイナーとして活躍していた奇才、ルネ・ラリック率いる「アール・デコ期」へと時代は変わっていくのです。



◆ エミール・ガレの代表的テクニック ◆
アンテルカレール 彫刻を施したガラスの上に別のガラスを被せ、さらに表面に彫刻を行うことで、奥行きのある装飾効果が得られる。
カボション カボションカットの宝石のような、半球体のガラスのかたまりを素地に溶着することで,立体的な効果が得られ、また、金や銀箔などをはさむと輝きが強まる。
パチネ ガラスに金属酸化物や硫化物の粉を部分的に混ぜたり、表面にまぶしたりすることで、素地とは色の異なる斑紋や筋があらわれる。
ペルル・メタリック 細かく砕いた金や銀、プラチナなどの箔を透明ガラスに挟むことで、素地に金属的なきらめきが加わる。

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サンドブラストレリーフでガラス彫刻

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